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活動報告

2020/10/14開催「第2回 JINイノベーション・マネジメントシステムサミット」レポート(第3弾:日本セッション-後編-)-日本企業はイノベーションの共通言語「ISO56002」を人間中心に適用せよ-

イノベーション・マネジメントシステム(IMS)が国際規格化されたことにより、誰もがイノベーションをシステマティックに実現できるようになるはずだ。しかし現実の道のりはそんなに平坦ではない。日米欧をつないで開催した「第2回 JINイノベーション・マネジメントシステムサミット(主催:一般社団法人Japan Innovation Network、以下JIN)」の日本セッションの後半は、4人のJIN理事・監事によるイノベーションへの各種各様の考察の展開とパネルディスカッションによる議論を繰り広げた。ここでも、イノベーションを成功させるためのヒントが多く提供された。

イノベーションの中心にある「人」の意識の大切さ

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授でJIN理事の前野隆司氏は、「社員が幸せになると創造性が3倍、イノベーションも3倍になる」という幸せとイノベーションの関係の研究成果を発した。前野氏はウェルビーイングの研究を手掛けていて、「幸せな人の条件がかなりわかってきている」という。幸せな条件として前野氏は、自説による4つの因子を紹介した。それが「やってみよう因子」「ありがとう因子」「なんとかなる因子」「ありのままに因子」だという。

その上で、これらの因子は創造性の条件に非常に似ていると分析する。やってみよう因子は失敗を恐れず取り組んでみる意識につながり、ありがとう因子は多様化した仲間の意見を受け入れる土壌になり、なんとかなる因子は前向きで楽観的な取り組みを支え、ありのまま因子は自分を信じて突き進む力になる。すなわち、幸せな人ほど、創造性が高く、イノベーションを起こすことができるというわけだ。

明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授で同じくJIN理事の野田稔氏は、イノベーションを実現する際に求められる人材のポートフォリオについて解説した。それはいわゆる「0-1」「1-10」「10-100」「100-101」の各人材のこと。

野田氏は、「イノベーションを実現しようとするとき、新しいことを生み出す0-1人材がほしいと聞く。しかし、0-1人材だけではイノベーションは広がらない」と見る。0-1人材が作ったアイデアを事業化する事業創造人材の1-10人材、事業を大きく展開する既存人材の10-100人材、そして既存事業を守り価値を高めていく100-101人材が揃って、イノベーションが広がるとの分析である。

「真剣にイノベーションを起こそうとしている会社でも、人間の心理として相互の人材の間で協力を得られない状況が起こりやすい。それだけに、相互の信頼と相手の期待を合わせた“相互尊重”を大切にして、すべての人材がイノベーションプロセスに参加しているという思いを持てるようにすることがイノベーションには必要だ」と野田氏は力説した。

コロナ禍はイノベーションにとって好機

DX(デジタルトランスフォーメション)にも「守りのDX」と「攻めのDX」があると指摘するのは、ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長 CEOでJIN理事の石黒不二代氏。「やってはいけないのは、デジタル技術を採用するだけの“なんちゃってDX”。成長のためのDXを守りのDXと攻めのDXに分けて考え、いずれかのDXを実現する必要がある」と語る。守りのDXにより生産性工場や働き方改革を実現するだけでなく、新しい顧客体験の提供やビジネスモデルの変更に繋がる攻めのDXを同時に考えなければならないとの分析である。

「攻めのDXは、やらなければいずれ他社が手掛けてきて、会社がなくなる危機感を持つべき。攻めのDXの基本は、サービスのグランドデザインをすることで、新しいユーザー体験(UX)をデザインすることが必要」と石黒氏は語る。新型コロナウイルス感染対策で環境が激変する中で、ユーザー起点で新しいサービスの発想をすることが、イノベーションにつながるという。

東京大学名誉教授、i.school エグゼクティブ・ディレクターでJIN常務理事の堀井秀之氏は、「コロナ禍による大きな変化は、改革のチャンス。これまでできなかった改革を一気に行える千載一遇のチャンスだ」と語る。イノベーション教育が、変化の時を迎えているというのだ。コロナ禍によりオンライン化が広まる中で、IMSの導入を進めるチャンスが到来しているという。堀井氏は「例えば大学生はオンラインのメリットを熟知しており、今後の就職活動ではテレワークに前向きな企業を選ぶ。テレワークに消極的な企業は優秀な学生を獲得できなくなる」と変化を読み解く。

実際に、i.schoolの現場でも、全てのワークショップをオンライン化して実践しているが、ほぼオフラインと同じ内容をこなせるようになった。その上で参加者の画面上の顔の笑顔度を数値化して分析したところ、均等に発話をしているグループでは最後に笑顔度が上がり、オンラインもワークショップにおける達成感を味わえることが確認できたという。

IMSに魂を入れるのは「人間中心経営」

日本セッションの最後は、オンライン参加したJIN理事・西口監事によるパネルディスカッションが行われ、「IMSに魂を込めるにはどうしたらいいか」について議論が交わされた。そこでは、IMSはシステムとしてなければならないが、一方でコンセプトの基盤に人間がおかれた人間中心経営が求められると議論が進んだ。

そして「ISOによる仕組みづくりや基盤づくりは大切だが、それを使う人が誰かが重要。幸せな人が生き生きと所属しているコミュニティで仕事をすることができれば、IMSに魂を入れたことになる」とイノベーションの目指す方向性が示された。

次回、欧州セッションに続く。