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坪木 光男氏(KOA株式会社 KPS-3イニシアティブ IMS推進センター ゼネラルマネージャー)が語る 価値創造活動における イノべーション・マネジメントシステムの役割 ーISO56002に則したIMS構築の試行錯誤ー
概要:
第35回JINオープン・イノベーション対話シリーズでは、ファシリテーターであるJIN常務理事の松本 毅と、KOA株式会社の坪木 光男氏が、「価値創造活動におけるイノベーション・マネジメントシステムの役割」について対談いたしました。
スピーカー:
坪木 光男氏
KOA 株式会社 KPS-3イニシアティブ IMS推進センター ゼネラルマネージャー
坪木 光男氏ご講演:
今回、坪木氏からは、世界トップシェアを誇る電子部品メーカーであるKOA株式会社におけるオープンイノベーション活動の試行錯誤について徹底解剖していただきました。
KOA株式会社では、1990年代より、経営のムダを徹底して廃除し、新しい経営システムづくりを目指す全員参加の継続的な改善活動としてKPS(KOA Profit System)活動を行っています。
KPSの変遷
KPS-1:経営のムダを徹底的に排除する
KPS-2:お客様からご指名いただける会社
KPS-3:共創できる研究開発型企業
2010年から始まったKPS-3からは、JIN のIMSAP (イノベーション・マネジメントシステム プログラム)を導入いただいており、今回のご講演ではその経緯を詳細にお話しいただきました。
2030ビジョン:
KOA株式会社では、「2030ビジョン」を掲げ、その実現に向けて具体的に活動しています。
2030ビジョン
ビジョンスローガン:
Essential Part of the World
ビジョンステートメント:
私たちKOAは世界を支える必要不可欠な部品メーカーとなり、
豊かな社会をつくる世界の一員でありたい。
小さな部品で世界に大きな変化を起こします。
地球と調和した循環型社会を目指し、社会課題の解決や豊かな暮らしの実現に取り組むお客様の困りごとの本質を見極め、新しい価値を提供します。
継続的な改善、高い品質による信頼関係を礎に、革新的な考働により未来を切り開きます。
価値創造ストーリー:
2030ビジョン実現に向け、KOA株式会社においては、2030年までEV等のモビリティ市場・産業機器市場の成長を支えると共に、2040年創業100周年に向け、新たな事業領域への取り組みを加速する挑戦をされています。
現在はPhase1(2022-2024年)におり、「確実な成長」を実現するための基盤作りに注力されています。
Phase2(2025−2027年):デジタル技術によるQCD向上、新製品/新事業の拡大
Phase3(2028−2030年):2040年に向けた事業構造改革
KOA株式会社では、自動車・産業機器などのアプリケーション・市場軸と、エネルギー・インフラ・環境の質などの社会課題軸の両方に事業領域を広げようとされており、新たな価値の創造のためにイノベーション・マネジメントシステム(IMS)の考え方をもとに新しい経営システムを作り、KOAの組織文化として浸透され、価値創造のプロセスを新事業と既存事業の両方で実践されています。
KPS-3(イノベーション活動)の試行錯誤:
続いて、KPS-3(イノベーション活動)についての詳細について、会社としての取り組みの経緯、そして坪木氏の個人的見解とともにお話しいただきました。その活動が始まった経緯から、継続可能となった理由、また試行錯誤についてのご説明は、実際のIMS導入事例として非常に参考になるものでした。
仕組みがあればイノベーションが生まれるのではなく、必要なのは「会社・個人の目的(=共通認識)×実現するのだという「志・意志」であるという坪木氏のお言葉には、推進の試行錯誤を経験されてきたからこその実感が込められていました。
現在、KOA株式会社がKPS-3を始めてから10年以上経っており、具体的にKPS-3を導入してから始まった新事業の取り組みとしての事例である、KOA の温度センサを利用した多点風速システム Windgraphyは上市までに7年かかっています。
この事例からは、イノベーションを起こすために、 「必要な時間をかける」という認識が重要であることが理解できます。
これまでの活動を通しての気づきとして、大切なのは
・何をやりたいのか
・課題は何か
・会社の方向性
などの「共通認識の醸成」であり、「社長・役員、上司、チーム、協力者が一丸となること」という表現に実践者としての坪木氏の実感が込められており、大変印象的でした。
IMS導入の経緯:
それまでのKPS活動を通しての気づきとして、
・意見交換・議論をしたくても会話が通じない
・そもそも新規事業開発をやったことのない人ばかりなので、理解できないのは当たり前
ということがありました。
そこで苦労してきた「判断と活動のポイント」を仕組み化する必要を感じた坪木氏は、2018年から具体的活動を開始され、新しい仕組みの提案を経営にされました。
2019年、IMSを知った坪木様は、未来に向けての会社の議論を通して皆の腹落ちにじっくり時間をかけ、IMSを導入されたのです。具体的に、2022年にIMS推進センターを発足され、育、意見交換の場を設け、さらに情報発信をされました。
そこにおいて、自社に合ったプロセスが作成されていきました。
以来、KOA株式会社では、IMSを活動・論点の羅針盤、共通認識を作るための羅針盤として活用されています。
ご講演の後、JIN松本より「坪木氏のパッションこそが社員の内発的動機になっているのではないか」という感想を受け、坪木氏は内発的動機の重要性、新規事業を成功させるためのタイミングについても解説くださいました。
「イノベーションは会社の有事の際には起こしにくいため、重要なのは平時からの種まき、そして仮説検証の繰り返しである」という自社体験から語る坪木氏の言葉には、松本、そしてJIN代表紺野も大いに同意するところでした。
質疑応答:
風速センサ Windgraphy開発の経緯、IMS導入に際して具体的に取り組んだ事柄などについてご質問をいただきました。
坪木氏からは、Windgraphyの仮説検証を繰り返しながら丁寧に進めていくことで、モデルとして新事業の仕組みを作られていった経緯をお話いただき、松本から他社事例もあげることで、IMS導入についてのご質問にお答えいたしました。
また、価値創造フローである事業開発と、製品設計フローである製品開発をどのように融合されたかについてのご質問もあり、この融合により新たな価値を創造されていったプロセスについても、IMSがいかに機能したかを含めて解説いただきました。
IMSAPについて:
坪木氏のご講演を受け、松本より、「両利きの経営」=二階建て経営がなぜ注目されるのかについて、簡単にお話をさせていただきました。
本業でも新規事業でもイノベーションを起こし続けることが企業の持続的成長に必要不可欠です。
その際、ISO56002(イノベーション・マネジメントシステム)の原理原則を組織内で一体化して適応していくことが重要になります。
ISO56002に則したIMS実戦への道筋であり、最先端のイノベーションの知見、およびイノベーション・マネジメントシステム構築を通じて、日本の産業・企業の知識集約型共営・組織への転換を加速支援するのが、JINのIMSAP(スタジオからはじまり、キャンプ1,2,3へと続く一連の教育プログラム)です。
第35回対話シリーズを終えて:
新規事業を生み出すために重要なことの一つが、社内における「共通認識の醸成」です。IMS導入によってそれを活動・議論の羅針盤として、役員、上司、チーム、協力者などを、時間がかかっても丁寧に繋いでいくことで新事業を生み出されたKOA株式会社のお取り組みに、大いに共感するところがございました。
今回、これからイノベーションを起こしたい会社の参考になれば、と自社の新事業について詳らかにお話くださった坪木氏に心より感謝いたします。
お知らせ:
次回の対談は、5月12日に 株式会社NTTデータ経営研究所 知財戦略デザイナー(特許庁から委託)の山下 穣氏をゲストとしてお迎えします。株式会社NTTデータ経営研究所は、ISO に則した新システムによって、研究開発領域から新規事業を数多く成功させている企業です。
次回も、非常に興味深い新規事業の話を聞くことができる機会です。
ぜひご参加ください。
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