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【第38回 オープン・イノベーション対話シリーズ レポート 】
出馬 弘昭氏(東北電力株式会社 事業創出部門 アドバイザー/
大阪大学フォーサイト株式会社 取締役
VP of Business Development/IZM 代表)が語る
シリコンバレーの脱炭素イノベーションと日本の現在地
- 脱炭素分野の「機会の特定」-
概要:
第38回JINオープン・イノベーション対話シリーズでは、ファシリテーターであるJIN常務理事の松本 毅と、東北電力株式会社 事業創出部門 アドバイザー/大阪大学フォーサイト株式会社 取締役 VP of Business Development/IZM 代表の出馬 弘昭氏が、「シリコンバレーの脱炭素イノベーションと日本の現在地 – 脱炭素分野の「機会の特定」–」をテーマに対談しました。
スピーカー:
出馬 弘昭氏
東北電力株式会社 事業創出部門 アドバイザー/大阪大学フォーサイト株式会社 取締役 VP of Business Development/IZM 代表
出馬 弘昭氏ご講演:
出馬氏は大学卒業後に大阪ガスに入社。数々のビジネス、部門立ち上げをされた後退職され、東京ガスに入社されました。その間、シリコンバレーで、グリーンリスキリングを実践され、現在は東北電力アドバイザー、大阪大学フォーサイト取締役を務めるとともにご自身でも「IZM」を立ち上げ、コンサルタントとして企業のイノベーション支援、スタートアップ支援など20を越える企業、団体と関わりながら活躍していらっしゃいます。
イノベーションのメッカ、シリコンバレー:
今、世界では国や企業からイノベーションが生まれる時代は終わり、未来を創る役割として、イノベーションの主役はスタートアップとなっています。
中でも、デジタル力で既存の業界を破壊するスタートアップが台頭してきており、企業は成長のために未来を創るであろうスタートアップと組み、自ら変革せざるを得ない状況にあります。
シリコンバレーには世界中のスタートアップが集まっています。実際に、そのシリコンバレーに駐在もされていた出馬氏は、シリコンバレーのスタートアップを成長させるためのエコシステムについての知見を、豊富な事例を用いてご説明くださいました。
現在、日本企業のシリコンバレー進出は第三次ブームを迎えており、約1,000社が進出しています。そのうち大手企業の多くが出資、買収などいずれの形かで連携するスタートアップの探索をしています。
脱炭素についての世界の潮流、「2050年ネットゼロ」*へ向けた動きについてお話しいただき、推薦図書として出馬氏も一部執筆してらっしゃる『カーボンニュートラル2050アウトルック』(日本電気協会新聞部)のご紹介もいただきました。
*ネットゼロ:温室効果ガスあるいは二酸化炭素(CO2)の排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにすること
世界の脱炭素イノベーション:
GCT(Global Clean Tech:グローバルクリーンテック)の投資トレンドは2015年から投資が増加傾向となり、2022年には約10兆円を越える規模になっています。実は、この2015年からの投資増加は第二次ブームであり、クリーンテックは少なくとも20年前にシリコンバレーに誕生しています。その歴史を具に見てきた出馬氏は、GCTのトレンド、歴史と事例を、図解を用いてご説明くださいました。
特に、シリコンバレーは脱炭素イノベーションのメッカでもあり、クリーンテック(脱炭素スタートアップ)の地域別ランキングでもシリコンバレーが一位です。(ちなみに、日本は35位以内にも入っていません。)
そのシリコンバレーにおいて、日本発のクリーンテックは増えていないものの、日本企業の投資は増加しており、GCT100社のうち27社に日本企業が投資をしています。
脱炭素イノベーションにおける日本の現在地:
2022年におけるクリーンテック分野の地域別スタートアップ数を見ると、日本は欧米の100分の1未満と、絶対数が圧倒的に少なく、クリーンテック投資ファンドサイズも欧米より1~2桁小さいとのことです。
米欧日の投資家ランキング(ディール数)で見ると、欧米は政府系が多く、国のお金がスタートアップの成長に生かされていますが、日本は企業系が多く、国の資金がこの分野では生かされていないことがわかります。
2030年の再生可能エネルギー発電設備容量の目標についても、日本は欧州勢より2桁小さく、2021年の大規模蓄電池のランキングについても、日本企業の存在感はありません。
一方、米国に目を移すと、WEF(World Economic Forum)のEIT(Energy Transition Index)のスコアランキングを見ると、シリコンバレーはイノベーションの聖地ですが、米国全体ではまだ旧態依然の部分もあり、国レベルでは、脱炭素イノベーションにおいては北欧の方が先進していることがわかります。
脱炭素ビジネスのヒント:
脱炭素ビジネスにおいては、ブルーオーシャン(スタートアップの戦い)らレッドオーシャン(大企業の戦い)になってきています。
日本は脱炭素ビジネスで世界から数年遅れているため、日本だけ見ていては世界で戦えません。
世界で戦うためには世界を見ることが必要です。
脱炭素ビジネスのヒントは、世界のクリーンテックスタートアップの動向にあります。
リスキリングでキャリアアップ:
今後、脱炭素分野でキャリアアップするには3つのリスキリングが必要になります。
① グリーン/GX
気候変動が21世紀最大のビジネスチャンスなので、その知識
② デジタル/DX
衝撃的な生成AIを使いこなすスキル
③ 新価値創造
AIに仕事を奪われない、人間にしかできないスキル
ここで新しい価値を生む方法論に興味のある方への推薦図書として『The First Penguins 新しい価値を生む方法論』(講談社)をご紹介いただきました。
質疑応答:
本日は脱炭素ビジネスにご関心のある方に多くお集まりいただいたこともあり、スタートアップの0→1(0→100)、オール電化、中東の脱炭素ビジネスの状況などについてかなり専門的なご質問をいただきました。それらのご質問に対して、日米欧の脱炭素の最新の情報をお持ちの出馬氏より丁寧なご回答をいただきました。
IMSAPについて:
出馬氏のご講演を受け、松本より、イノベーションを起こすための「IMS実践への道筋」についてお話をさせていただきました。
本業でも新規事業でもイノベーションを起こし続けることが企業の持続的成長に必要不可欠です。
その際、ISO56002(イノベーション・マネジメントシステム)の原理原則を組織内で一体化して適応していくことが重要になります。
ISO56002に即したIMS実戦への道筋であり、最先端のイノべーションの知見、およびイノべーション・マネジメントシステム構築を通じて、日本の産業・企業の知識集約型共営・組織への転換を、加速支援するのが、JINのIMSAP(スタジオからはじまり、キャンプ1,2,3へと続く一連の教育プログラム)です。
第38回対話シリーズを終えて:
出馬氏のお話を伺う中で、今、なぜ脱炭素の文脈において、クリーンテックスタートアップも大企業もシリコンバレーを目指すのか、ということが理解できたと同時に、日本の脱炭素に対する対応の遅れが深刻であることを痛感しました。日本は、世界に目を向けなければなりません。