Newsニュース
【第41回 オープン・イノベーション対話シリーズ レポート 】
清水 洋氏(早稲田大学 商学学術院 教授)が語る
競争戦略としてのオープンイノベーション
- イノベーションを加速するオープンイノベーション -
概要:
第41回JINオープン・イノベーション対話シリーズでは、ファシリテーターであるJIN常務理事の松本 毅と、早稲田大学 商学学術院 教授の清水 洋氏が、「競争戦略としてのオープンイノベーション - イノベーションを加速するオープンイノベーション -」をテーマに対談しました。
スピーカー:
清水 洋氏
早稲田大学 商学学術院 教授
清水氏プロフィール:
一橋大学大学院商学研究科修士。ノースウエスタン大学歴史学研究科修士。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでPh.D.(経済史)取得。アイントホーフェン工科大学フェロー、一橋大学大学院イノベーション研究センター教授を経て、早稲田大学商学学術院教授。『ジェネラル・パーパス・テクノロジーのイノベーション:半導体レーザーの技術進化の日米比較』で日経・経済図書文化賞と高宮賞受賞。
清水 洋氏ご講演:
イノベーション、オープン・イノベーションとは
清水先生の講義は「イノベーション」とは「経済的な価値を生み出す新しいモノゴト」であり、「オープン・イノベーション」とは「経済的な価値を生み出す新しいモノゴトのオープンな作り方」という言語の定義より始まりました。
当日は、主に“経済的な価値への転換”という戦術寄りのお話をいただきましたが、戦略を考える上での注意点として、競合他社を打ち負かすことではなく、「持続的に高い価値(利益)を創造するための道筋」であるという説明もまた非常に明快でした。
日米の企業におけるイノベーションの状況の比較もROAと企業の年齢の数字を用いたグラフでわかりやすく示され、戦略的なオープン・イノベーションの領域を作ることの重要性をご示唆いただきました。
どこで新しさを生み出せば経済的な価値に結びつくのか
清水氏は「新規性の高いモノゴトを生み出すだけでは経済的な価値に結びつかず、ボトルネックの解消でこそ価値が出る」と仰いました。ボトルネックとは、以下の2つが考えられます。
- 顧客の価値を規定するモノ
- 自社の価値を規定するものを無効化するモノ
- 顧客の価値を規定するモノ
まずは思考実験として、なぜ自社の強みを磨いていくだけではダメなのかを、具体的な事業会社の事例を用いてご説明いただきました。競争戦略というと参入障壁を上げることがよく言われますが、むしろ参入障壁を下げ、補完財を競争的にし、自社をボトルネックにすることで価値を上げる、という清水氏の視点に目を開かされました。
オープン・イノベーションの新しさは、オープン=排他的ではない・誰でも参入できる(ように仕組みを作る)ことにより、自らの経営資源の価値を高めることであり、これを推進するためには自社の経営資源の棚卸しから行うことが重要であるということについて、GEのオープン・イノベーションの事例などからも理解を進めていただきました。 - 自社の価値を規定するものを無効化するモノ
ここでは「自社のボトルネックはどこなのか?」について、スペシャリティ・コーヒー業界の例をもとに、自社の価値(経済的な価値)を規定するものを無効化できているからこそ利益率が高くなるという考察をご教示いただきました。
まとめ:
競争戦略としてのオープン・イノベーションとは、オープン“インベンション”ではありません。また、オープンイノベーションが戦略的提携とは違うポイントは「オープンであること(参入障壁を下げる)」ことです。
その上で、重要なことは、オープン・イノベーションにおいて、どこで新しさを生み出せば経済的な価値に結びつくのかを考えていくことです。
質疑応答:
まずは松本からの、社会的価値についての質問に対して、「社会的価値と経済的価値の両立」という明快なお答えをいただきました。「顧客のボトルネック」という新たな観点について、そしてバリューチェーン全体の見直し、分析の大切さについても解説いただきました。
清水氏のお話からは、オープン・イノベーションにおいては「切り分ける」つまり要素技術ごとに考える、やり方を変えるということの大切さを理解することができました。
「イノベーションとは、試行錯誤の量を増やすゲームである」よって「オープン・イノベーションは試行錯誤を多くやっている(=より多く投資されている)ところと組む」ことが大切であるという重要な示唆もいただきました。
また、SBIR(Small Business Innovation Research)制度についても貴重な情報をいただきました。
ここで先生の著書をご紹介いたします。
お読みになることで、改めてイノベーションについてさらなる学びを深められるのではと思います。
野生化するイノベーション: 日本経済「失われた20年」を超える (新潮選書)
IMSAPについて:
清水氏のご講演を受け、松本より、イノベーションを起こすための「IMS実践への道筋」についてお話をさせていただきました。
本業でも新規事業でもイノベーションを起こし続けることが企業の持続的成長に必要不可欠です。
その際、ISO56002(イノベーション・マネジメントシステム)の原理原則を組織内で一体化して適応していくことが重要になります。
ISO56002に即したIMS実戦への道筋であり、最先端のイノベーションの知見、およびイノべーション・マネジメントシステム構築を通じて、日本の産業・企業の知識集約型共営・組織への転換を、加速支援するのが、JINのIMSAP(スタジオからはじまり、キャンプ1,2,3へと続く一連の教育プログラム)です。
詳しくはこちらから
第41回対話シリーズを終えて:
イノベーション、オープン・イノベーション、競争戦略などについての定義づけから始まる清水氏の講義は、豊富な事例をもとにされており、非常に明快で理解しやすい講義でした。
特にスターバックスコーヒーの事例などからはイノベーションの本質を理解することができ、自社においてイノベーションを推進するために必要なことを考える貴重な機会となりました。