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JINイノベーション便り

西口尚宏のイノベーション日記#6「自然の掟とイノベーション」

5月のゴールデンウィークに四泊五日で瀬戸内海を横断するセーリング特訓を行いました。関西空港対岸の泉南市から広島の三原港までを深夜航海も含めて初対面の5名の男性が交代で舵を握り航海を続けるというものです。特訓のハイライトは明石海峡をはじめとする複数の海峡を乗り切ることでした。明石海峡を安全に越えるためには、潮流が1日に2回反転する時間と方向を把握した上で海峡に入っていく必要があります。その時間や潮流を知らずに海峡に突入すると、いくら努力しても船は前に進みません。

その明石海峡を越えていく中でふと思ったのです。この海流の変化は源氏物語以前の時代から続いている自然の掟であり、航海関係者には既知のルールであるが、門外漢や初心者は知る由もない。イノベーションにおいても同じことが起こっているのではないか。と。世の中には、私たちが知らないだけで、厳然と存在している自然の掟(ルール)があります。ルールの中には既に可視化されているものもありますが、私たちが知らないルールも数多くあるに違いありません。イノベーション活動でも私たちが気づいていないルールや法則が数多くあり、その一部の可視化が急速に進んでいるのがイノベーションを取り巻く世界の流れではないかと、舵を握りながら考えました。昨今のイノベーション経営のISO化の流れも今まで一部の人しか知らなかったルールが可視化される流れと理解すれば非常にわかりやすいのです。だとすれば、そのルールの存在を知らないよりは知った方がいいに決まっています。

JINの原点である経済産業省の「フロンティア人材研究会」の目的も変わりつつあるルールに追いついていない日本企業への警鐘を鳴らすことにありました。イノベーション活動は個人が頑張るだけでは不十分で、試行錯誤を経営として推進するための経営改革を欧米企業が始めていることに気づいたことがポイントです。イノベーション活動を社内の傍流活動としては競争力強化など夢物語であり、「二階建てイノベーション経営」の実行・普及部隊としてJINを創業したのでした。

ところで、新しいルールという観点では、既存企業とスタートアップとの連携はイノベーションの興し方における新しいルールとも言えるでしょう。世界各国の大企業が積極的にスタートアップとの連携を進めています。もちろん、そのやり方には巧拙があり、成功確率もまだまだ高くないのも事実です。その中で、JINは全世界150カ国のイノベーション関連組織・インキュベーターとの相互に信頼感のあるネットワークを構築してきました。そのネットワークを活用して、テーマ別に日本企業と諸外国のスタートアップの皆さんとの協業を推進するプログラムを二つ始めています。

そのひとつがSDGsのテーマとスタートアップを組み合わせた「SDGsグローバルスタートアッププログラム」です。これはNTTデータさんと共同運営していますが、社会的インパクトとビジネスインパクトの両方を追求する野心的なプログラムです。既にUNDP(国連開発計画)と2年間にわたり共同運営しているSHIPとも連携する内容となります。

イノベーションの本質はシュンペーターの語った「慣行軌道の変更による重心の移動」にあります。そのためには、今までのパターンを意識的に変えていく試みが必要になっていきますが、JINでは様々な海外機関との連携が予定されており、引き続き積極的に推進していきます。

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「西口尚宏のイノベーション日記」について;
「大企業からイノベーションは興らない」という定説を覆す活動に2009年に身を投じてから早や8年が経ちましたが、日々発見の連続です。おかげさまで、複数の加速支援先で具体的な成果が出始めたところですが、ご縁を頂きましたお一人おひとりに定期的に近況をお伝えする「西口尚宏のイノベーション日記」を2017年4月からお送りしています。JINは私が全力投球している活動ですので、どうしてもJINでのイノベーション活動の話題が中心になりますが、一般社団法人日本防災プラットフォームの代表理事としての活動もイノベーション視点で行っておりますので、国際防災の話題に触れることもあると思います。西口からの私信という形を取らせて頂きますので、気軽にご高覧賜れば幸いです。
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