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活動報告

2020/10/14開催「第2回 JINイノベーション・マネジメントシステムサミット」レポート(第7弾:アメリカセッション(1)-前編-)-品質管理からイノベーション・マネジメントへシステムを移行せよ-

日米欧をつないで開催した「第2回 JINイノベーション・マネジメントシステムサミット(主催:一般社団法人Japan Innovation Network、以下JIN)」のアメリカセッション(1)では、「アメリカはIMSにどう向き合っているのか?」をテーマに、ISO/TC 279イノベーションマネジメント米国審議委員会委員長のフランク・ヴォール氏と、同副委員長のリック・フェルナンデス氏に意見を求めた。

両氏は品質管理や品質管理システム(QMS)のプロフェッショナルであり、現在はイノベーション・マネジメントシステム(IMS)標準のISO56002を米国で根付かせる取り組みを続けている。

デミング賞に源流を発するイノベーション・マネジメントシステム

JIN代表理事の西口尚宏から、まず、「おふたりとも品質管理のプロで、経験も非常に豊富だ。なぜ、このような品質管理のプロがイノベーションの分野で活動しているのか」という質問が投げかけられた。

 これには、フェルナンデス氏が答えた。「1951年、総合品質管理(TQC)に関するデミング賞が日本で創設された。その後、1987年になると、ISOが品質管理の標準規格であるBS5750を作り、これが今のISO9001につながる。そして米国では1988年にマルコム・ボルドリッジ賞が創設され、経営システムの品質向上に向けた本格的な取り組みが進んでいった。そうして、私たちが品質管理に関わったフロリダ電力(Florida Power& Light Company)が1989年に非日系企業として初めてデミング賞を受賞した。このように、アメリカでも品質管理システム(QMS)が確立されていった」。

フェルナンデス氏は続けて、「しかし、ISO9001は新しくて破壊的なアイデアやテクノロジーにはフォーカスしていなかった。市場に新しいイノベーションをもたらす仕組みは備えていなかったのだ。そうした中で、2013年にIMSの国際標準のISO56000の標準化が始まり、2019年のISO56002の策定に繋がった。これは自然な流れだった」とISO9001からISO56002への流れについて説明した。

QMSにはない破壊的な創造を起こす仕組みがIMS

では、QMSのISO9001と、IMSのISO56002は何が違うのだろうか。フェルナンデス氏は、「ISO56002では、“意図”を起点にして“イノベーションの価値”を生み出すまでに、試行錯誤を繰りすプロセスが含まれている。このイノベーション活動の部分の有無がISO9001との大きな違い」と語る。ISO9001は既に存在しているものを良くする規格であり、ISO56002は新しい存在を生み出す規格であり、その差分がイノベーション活動に当たるというわけだ。

これまでにない追加の価値を顧客に提供し、市場に新しい価値を提供することがIMSの目的であり、イノベーション活動のプロセスを持つことがISO56002の最大の特徴というわけだ。一方で、ISO56002への対応に努力する企業にとって、ISO9001の認証を受けていればそれだけでも有利になるとフェルナンデス氏は指摘する。「ISO9001からISO56002に向けて新しいプロフェッショナルが求められるという新しい波が到来し、人材が品質管理からイノベーションに移行した。これが西口さんの冒頭の質問の答えになる」と語る。

新しいだけではなく価値をあるものを作る必要性

一方で、IMSを導入したとしても、「新しいものを作るだけでなく、価値があるものを作らないといけない。品質管理は価値を産まない」とフェルナンデス氏は厳しい指摘をする。米国審議委員会の委員長であるヴォール氏も、「品質管理のQMSというのはコントロールであり、ものごとを改善するが、破壊的な創造はない。永続的に改善をしていく中で、創造的な破壊をするブレークスルーがあり、その結果、IMSができた」と続ける。西口は、「コントロール、品質向上のための改善としてのQMSがあり、そこからシフトが起きてイノベーションのためのIMSできたことがよくわかった」と話を受けた。

こうした議論からは、多くの企業がISO9001認証を取得している日本でも、そこを始まりにしてイノベーション・マネジメントシステムを作り上げ、変革期を乗り越える可能性があることが示唆される。フェルナンデス氏は、「体系的な方法で、望み通りの成功を得る方法があったことに米国の企業や団体も気づいてきている」と語った。

次回、アメリカセッション(1)後編へ続く