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活動報告

2020/10/14開催「第2回 JINイノベーション・マネジメントシステムサミット」レポート(第10弾:アメリカセッション(2)-中編-)-コロナ禍で予測不能性を体感した世界が変革とイノベーションを実現するには-

第2回 JINイノベーション・マネジメントシステムサミット」の最終セッションレポートの中編。登壇者はロイヤル・ダッチ・シェルPLC会長のチャド・ホリデイ氏と、米国競争力評議会(COC)会長兼CEOで国際競争力評議会連盟(GFCC)会長のデボラ・ウィンス-スミス氏で、JIN代表理事の西口尚宏と、JIN Chairperson・理事の紺野登氏が加わってディスカッションを続けた。

シェルはどのようにコロナ禍に対応してきたか

パネルディスカッションの中盤では、ホリデイ氏は、自らが率いる多国籍企業のロイヤル・ダッチ・シェル(以下、シェル)で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の変化にいかに対応しているかについて、具体的なイノベーションの事例を語った。

西口が、「シェルは世界中にガソリンスタンドを持っている。危機的な状況でそれらのガソリンスタンドは何らかの役割を担ったのか?」と問いかけると、ホリデイ氏は語り出した。「米経済紙のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が2020年10月に発表したサステナブル経営のランキングで、シェルは33位だった、例えばこんな事例がある。コロナ禍で、シェルは中国において最初に影響を受けたが、散髪ができなくなった人々のために、ガソリンスタンドで散髪できるサービスを提供した。また4万5000のガソリンスタンドを物流拠点として活用し、食品、生活必需品を配るための拠点にした。ここから、コミュニティーに対して価値の提供方法をかつてないものにしなければならないということを学んだ」。

西口は、「ガソリンスタンドは散髪や物流のために設計されていないが、どのように変化させたのか」と問うと、ホリデイ氏は「その肝は分散型の組織運営だ。中国のローカルオフィスからオランダ本社に電話をして『散髪していいか?』と尋ねる必要はなかった。シェルには中核となるバリューがあり、そこから離れることはできないが、顧客にとって必要不可欠なサービスを提供する範囲では変化が認められている」と答えた。

さらにホリデイ氏は、「重要なことは、ローカルの文化があるということだ。中国ではうまくいっても、他の地域ではうまくいかないこともある。しかし、学習を続けることは大事であり、中国で学んだことを世界中で展開できる。常に求められるのは、ローカルの人材に意思決定してもらうことだろう。訓練されたローカルの人材が意思決定することで、現実の人々のニーズに対応できる。こうした活動を企業としては再評価する必要がある」と語った。

紺野氏は、「ホリデイ氏のシェルでは、ガソリンスタンドの目的を、本来のガソリン販売から社会的な価値提供に置き換えたのだろう。長期的な地域社会へ貢献を第一に考えた施策だと思う。日本企業も、必要に応じて企業の目的を転換することが重要だ」と語った。

競争力とイノベーションの関係とは

ここで西口が競争力とイノベーションに話を向けた。そして「競争は、一般的には他社を打ち負かすことかと思う。しかし、協力による競争という考え方もある。これについてどのように考えるか」と問うた。

ウィンス-スミス氏は、競争においては本来協力するというコンセプトが中核にあると語った。「10年ほど前にホリデイ氏を含め、世界中のリーダーやアクションプランナーを集めて、議論を行った。それは、各国が生活水準を上げ、価値や雇用を生み出し、経済を推し進めグローバルで成功することだ。そうした社会が前進するために重要なのが競争に対する答だ。英語ではCompetitivenessというが、国際競争力評議会連盟(Global Federation of Competitiveness Councils:GFCC)の歴史そのものが協力による競争力を物語っている。GCFFでは、1カ国、2カ国が繁栄しても意味がなく、持続可能な成長を地球全体で実現するためにはそれぞれの社会が最適を目指す必要がある―という知見を持っている。すなわち、協力なくして競争力はありえない。一方で競争力を持つための協力にはルールがある」。

ホリデイ氏は、「我々のこの答には、多くの批判もあった。例えば、『我々はアメリカの競争力をもっと強めたいと思っているのに、他国の競争力を高めるのはいかがなものか?むしろ保護主義的にならなければならないのでは?』というものだった。そこでウィンス-スミス氏は、多くの国のそれぞれに多様な価値があるということを認識しようと提案してくれた。今では25カ国がこのプロセスに関与している」。

さらにホリデイ氏は、「今の繁栄があっても、それは長期的に見れば幻影かもしれない。コロナ禍が終わった後、本物の協力をしていれば本物の繁栄を目指せる。それが変革の本質だろう。私たちは今すぐ何かをしないと、今後数十年間の間に世界中の生活者にとっての影響が大きくなり、生活が困難になってしまうかもしれない。今回のコロナ禍は、変革の機会でもあり、どのような変革をすべきかという課題を提示しているのである」と指摘した。

アメリカセッション(2)後編に続く。